千葉県浦安市で鍼灸院をしているTENGEN院長です。
11月26日(日)に江島杉山神社で杉山検校遺徳顕彰会の第4回学術講習会がありましたので、行って来ました。
杉山検校遺徳顕彰会とは・・・
この公益財団は、「日本の鍼灸手技療法の中興の祖である総検校杉山和一の遺徳を顕彰し、併せて会員相互の協力により、この分野における歴史的文化財の維持ならびに学術の興隆と普及を図り、さらに多くの皆様の健康維持増進に寄与することを目指しております
公益財団杉山検校遺徳顕彰会HPより
では、杉山 和一とは一体どんな人だったのでしょうか?
杉山和一
没年:元禄7.5.18(1694.6.10)
生年:慶長15(1610)
江戸前期の鍼術家。伊勢国(三重県)津生まれ。父は藤堂藩の家臣杉山重政。幼少のころ伝染病にかかり,失明。青年となり江戸の鍼術家山瀬琢一に入門したが,学も術も進歩せず破門をいい渡される。そこで江ノ島の弁財天の祠にこもり,7日間の断食祈願を行った。この結願の日に,帰り道にあった臥牛石につまずいて倒れ,松葉の入った竹の管を拾い,管鍼術のヒントを得たという。管鍼術は管の中に鍼を入れ,この管の上部に出ている鍼頭を示指で叩いて刺入するもので,日本独自のものとなった。のち京都に上り,入江豊明について,入江流の鍼術を学ぶ。江戸に出て開業したところ,門前市をなす盛況を呈した。寛文11(1671)年62歳にして検校となる。72歳のとき,鍼治学問所を設ける。貞享2(1685)年75歳のとき,将軍徳川綱吉の治療を行う。83歳で関東総検校となる。元禄6(1693)年,綱吉の「何かほしいものはないか」との言葉に対して「目がほしい」と答えたところ,本所一つ目に町屋敷をたまわった。翌7年5月18日病の床につき,6月26日に死去したが,遺言により5月18日を命日とした。著書に杉山三部書といわれる『療治の大概集』『選鍼三要集』『医学節用集』がある。『療治の大概集』は入江流の鍼術を,『選鍼三要集』は中国古典の鍼理論を,『医学節用集』は東洋医学の概論を述べている。いずれも明治13(1880)年に出版された。朝日日本歴史人物事典の解説より
1.東洋医学の概要
初めの一時間では東洋思想の話がメインになりました。
ここでは、気の概念や陰陽観などの話がありました。
東洋的な発想
今回のお話で、ある一つの例題がでました。
- 患者A:坐骨神経痛の症状がでている。
- 患者B:発熱の症状がでている。
- 患者C:ここ数週間、咳の症状が治まらない。
一見すると3者共に患者の訴えはバラバラなので、関係ないように見えてしまう。
しかし、東洋的な発想では、
では、共通したものとは何なのか?
東洋的な発想では、気の状態を知る必要があります。
ではいったいどうやって、気の状態を知ることができるのだろうか?
精気為物
これは、易経にでてくる一文です。
読み方は「せいきものをなす」と読みます。
精気:精なる元気、目に見えない力
物: 認識できる存在、目に見える存在
物を追究しようとすると、物の最小単位がでてくる。
現在の物理学では物の最小単位は素粒子になります。
全ての物質は素粒子からできている!となります。
では素粒子を取り除いたら何があるのか?
そこには「気」というエネルギーがあるはずです。
精気為物とは、
「精気という目に見えない力によって、物という認識できる存在に為る!」
となります。
という事は、物もまた目に見える「気」という事になります。
ではこれを人に当てまめると、
生命体は目に見えて、認識できる存在。
生命(生命力)は、目に見えない力。
という事は、
生命体の状況によって、精気の状態を知る事になる!
先程の3者共別々の症状も、根底には精気という気の状態が弱まってきていると考えられる。
精気の虚(生命力の低下)によって、様々な症状として生命体の状況として現れている。
積聚治療では、このような一元的な思想で治療を行うのである。
太極・陰陽観
「東洋的なものを追及していくと、陰陽を突き詰めていかなくてはいけない。」
と、おっしゃっていました。
今回の講義では、陰陽の話はそこまで長くは話さなかったです。
何故なら、陰陽の話だけで何時間も掛かってしまうからです。
それだけ陰陽観は奥が深い内容になります。
陰陽は気の現れ
陰陽とは気の状態を現したものである。
- 陰(気): 陰的な状態の気
- 陽(気): 陽的な状態の気
「そして全ての物は、物になった瞬間に陰陽に分けられる!」
というのが東洋的な発想になります。
通常、陰陽は相対的な概念になります。
これは、物になった瞬間に分かれた状態の陰陽になります。
これを人にあてはめると、
このようになるのではないでしょうか?
人は認識できる存在、目に見える存在でしか変化の判断ができません。
しかし、目に見える存在が変化しているという事は目に見えない力も変化している事になります。
精気の特徴
- 精気は、物を為す。
- 精気は、主にエネルギーである。
- 精気は常に動いている。
- 精気の動きに境界はない。
- 生命は、精気である。
- 生命としての精気は、虚す。
そして、先程の変化の判断も基準がないと比較できません。
その基準になるのが太極になります。
全ての物事の始まりであり大本や根底であり、また全体であるという概念である。
こちらは易の構成になります。
物事の始まりである太極により陰陽に分かれ、さらにその陰陽から陰陽に分かれていきます。
2.積聚治療の手順
治療構成
治療手段
- 基本治療=SJ毫鍼
- 補助治療=SJ毫鍼・SJ鍉鍼・三稜鍼・灸
治療方針
病体に診るすべての症状を、診断と治療の指標とする。
治療手順の解説は別記事の卒業生セミナーシリーズをご覧になってみて下さい。
刺激の伝わり方
ここでは講義の中で話がでた、刺激の伝わり方について書いていきます。
ある例題がでました。
「左膝が痛い患者さんに右手のツボ(ここでは合谷穴でした)に鍼をしたら、痛みが無くなった。」
これはいったいどういう事でしょう?
西洋医学的な筋肉や神経の走行では説明がつきません。
東洋医学的な経絡の流注でも説明するのが難しいと思います。
では一体、体の中では何が起こっているのでしょう?
イメージとしては池に小石を投げ入れるのを想像してみて下さい。
投げ入れられた所から波紋ができてきます。そしてその波紋はどんどん広がっていきます。
広がった波紋は、池の岸に到着するでしょう。
鍼の刺激も同様で、鍼をする事によって離れている所にも影響があると考えます。
「じゃぁ~、どこに刺してもいいじゃない!」
と思うかもしれませんが、その刺激を効率よく、より最大限に効果をださせるのが
治療手順であり、術者の技量であり、治療理論なのではないでしょうか?
3.実技
実技をしながら治療の解説をしてくれました。
膝内側の指標の確認です。
指標は痛みを探すのであって、強く圧して痛みをださせるわけではありません。
腹部接触鍼の写真です。
手の動きがスムーズで、しっかりと指標の変化をだしていました。
脈診の写真です。
通常正面からの画像は多いですが、後ろからの画像は意外に貴重なのではないでしょうか?手の形がきれいなのがうしろからでもわかります。
脈調整の写真です。
押手の中指、薬指、小指で患者の前腕をしっかり支えているのがわかります。
腹診の写真です。
圧が強すぎず、弱すぎず、患者に不快感を与えないようにしっかり積を探っています。
背部兪穴の治療写真です。
全体的に力みがなく、理想的な構え方です。
最後に肩上部の治療の写真です。
治療時間が長いとそれだけ患者に負担がかかる事になるからです。
短い時間でしっかり結果をだせるのは凄いことなのです。
まとめ
今回の講義は3時間のという短い時間に内容がぎっしり詰まっていました。
短い時間の中でしっかりとまとめあげる所は、さすが長年教鞭をふるっているからだと実感しました。
今回興味深かったのは、先生が背部兪穴の治療をしている時に、杉山検校遺徳顕彰会の和久野会長が脈を診ながら脈が変わってきたのを観察していた所です。
積聚会でもやらない光景なので、より新鮮に見えました。
先生の何気ない一言が、実はかなり奥が深い事なのだと今回の記事を書いていて実感しました。
今回、東洋医学用語の解説は割愛させていただきました。
別の記事に東洋医学用語の解説を簡単ですが書いていますので、そちらも読んでみて下さい。
実を云うとこの日は講習会のダブルヘッダー!
この後、また講習会に行って来ます 🙂
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