千葉県浦安市で鍼灸院をしているTENGEN院長です。
9月30日(土)に、母校である両国柔整鍼灸専門学校(了徳寺学園医療専門学校)で卒業生セミナー第3回目がありましたので、行って来ました。
やはり両国に来たならば、セミナー前に腹ごしらえをしときます。
今回も前回同様、JR両国駅前にある立ち食いそば文殊に行って来ました。
今回はざる定食のカレーライスにしました。
ここのカレーライスは、レトルト感まる出しなんですけど、
「なぜか癖になる味なんですよねぇ~」ということで、ついつい注文してしまいます。
本題に戻りまして、今回の講義は「脈診と脈調整」になります。
前回、腹部接触鍼の講義と実技がありましたが、内容をあまり記事に書いていなかったので、
腹部接触鍼の内容から書きたいと思います。
腹部接触鍼
接触鍼の意義
①接触鍼は身体の最も表層の気を動かすことにある。
最表層の気の操作とはいっても、最表層の気のみ操作ということではなく、深部を意識することで深い陰の気まで影響が及んでいるとする。
接触鍼によって腹部や背部の状態が変わるだけでなく、脈も変化し、いろいろな指標にも影響がいっている。
②接触鍼は補法である。
積聚治療で行うすべての治療は、原則として身体にとって補となるような操作に終始する。
接触鍼も補法の1つであり、精気の虚を補う力を持つものである。
腹部接触鍼の部位
上下域: 上限は左右の季肋部下縁
下限は恥骨および左右の鼠径部
左右域: 両端は左右の胆経
接触鍼の仕方
接触鍼の押手の構えや刺手の鍼の持ち方は、毫鍼の刺入時と同じである。
1) 押手の母指と示指と皮膚面とで出来る三角形の空間に、
上方からほぼ80~90度の角度で、刺手の鍼を真っ直ぐ入れ皮膚に当てる。
押手の残り3指の先も皮膚に接する。母指球と小指球は皮膚に触れない。
刺手は少なくとも小指を皮膚に当て安定させる。ただし、患者の位置が高ければ、
押手・刺手共に母指球、小指球が皮膚に触れることもある。
2) 鍼が皮膚に当たると同時に、刺手は鍼の弾力性を利用して皮膚を圧迫する。
次に鍼を皮膚から離すと同時に、押手の示指でツボを閉じる。
このツボを閉じる動作は、鍼操作に補的な意味合いを加えるものである。
毫鍼には弾力性がある為、皮膚面に押し付けると鍼体は若干たわむが、力を抜くとすぐに元に戻るものである。この鍼がたわんでも元に戻れる範囲の力を加えることが、接触鍼では大切である。、鍼がまったくたわもうとしないような操作は力が加わっていないものであり、患体には気がこもってしまってかえって害になる。また、このとき切皮して鍼が入っていくようであれば、その状況に任せて鍼を入れる。
”接触”鍼という言葉に惑わされて、鍼が上滑りにならないようにする。
積聚治療 小林 詔司著 医道の日本社
3) 接触鍼はツボにこだわらず、上から下へ、また向こうから手前へとランダムに行う。
皮膚面を経絡の集合した線状のものとしてではなく、面としてみるのが大切
おおむね2~3回繰り返せばよい。
非常に力が無い、身体が冷えている、過敏である、熱があるなどの場合は、
少しゆっくり丁寧に運鍼し、往復回数を多くする。
4) 接触鍼は毫鍼の刺入時と同様に、術者のイメージ操作がその効果を左右する。
その時、あたかも長い鍼が皮膚を貫いて反対側にまで到達するような意識、
慣れればその部位から身体の四方八方に波紋が広がるような意識を持つことが重要。
5) 接触鍼を終える目安は、指標の変化による。
指標の中でも特に皮膚から出る汗(湿り気)は重要である。
原則として発汗の勢いが収まれば接触鍼を止める頃合いであり、
他の指標の変化が顕著であれば、それを基にしても良い。
簡単ではありますが、接触鍼の説明になります。
習い始めの頃は、腹部接触鍼を「手順の一つだからただやっているだけ。」の人を多く見かけます。ですが、接触鍼はちゃんとやればしっかり身体に影響がでる治療法です。
接触鍼で身体の変化を実感した事がない術者は、身体の変化がでるまで接触鍼をしてみる練習をしてみてはいかがでしょうか。
では、ここからは今回のセミナーの講義にありました「脈診・脈調整」の話にいきたいと思います。
脈診
積聚治療では、「六部定位脈診」を使って脈診をします。
では、六部定位脈診とはいったい何なのでしょうか?
六部定位脈診
わが国で、現在もっとも多く用いられている脈診法。『難経』で最初に確立され、その後いくつかの改良が試みられ、現在の姿になった。もともとは、臓腑の異常を診る診断法であったが、その後、経絡の異常も診る診断法となった。
脈診の部位は、脈状診の寸口(寸口・関上・尺中)の部位で、左右の寸関尺の六部を比較する。また、寸関尺での指の圧力の違いにより、それぞれ浮中沈の三部をも診ることから、寸関尺の三部と浮中沈の三部を合わせて、『素問』の三部九候診と同様に『難経』の三部九候診とも呼ばれた。現在では六部定位脈診を、六部定位脈差診、または六部定位比較脈診ともいう。
また、六部定位脈診は各部の脈の強さを比較するのであるが、六部定位脈診と脈状診を組み合わせて、六部定位脈状診などと呼び、脈の強さだけでなくさまざまな脈状で比較する試みが行われている。
東洋医学概論 医道の日本社
簡単にいうと、左右の手首の橈骨動脈拍動部(脈拍を測る場所)を同時に診て、身体の状態を把握するものです。
患者の左右の手首に術者が示指(人差し指)・中指(ちゅうし≪なかゆび≫)・環指(薬指)を添えて診ていきます。
左右の三指が当たる所に蔵府の名称を置きます。
積聚治療での脈の意義
脈は体の反応の一部であることを認識し、接触鍼で動いた後の気の状態をみる。
脈の調整は、接触鍼後の次層の気を動かす。
指の当て方
① まず患者の両手が腹部に乗るような自然な姿勢をとらせる。
② 術者の左手で患者の右の脈、術者の右手で患者の左の脈を診る。
③ 術者の母指腹を患者の陽池穴(手関節背側中央)あたりに、
術者の中指腹を患者の橈骨茎状突起内に置き、
次にその中指の両側に示指、環指を添える。
④ 術者の指は、指節関節を曲げないで、指腹全体が脈に当たるようにする。
注)指尖では診ない。
⑤ 寸口部より尺中部にむかって脈は深くなっていることに注意する。
ちなみにこちらは私の脈診風景を拡大した写真です。
参考までに
脈速
脈速は1分間の拍動数を計るもので、便宜的に15秒の拍動数を4倍にして換算する。
正常の範囲を60~90拍とする。
- 90拍以上を数脈
- 60拍未満を遅脈
数脈は熱の病症・遅脈は冷えの病症になる。
実際には患者さんの基準値を知る必要がある。
もともと拍動数が速い人が90拍を超えていても熱の病症とは言い難く、逆にもともと拍動数が遅い人が60未満であっても冷えの病症とは言い難い。
いつも60拍位の人が90拍位になっていれば、平均的には正常の範囲であっても、その人にとっては数脈であり、異状になる。
リズム
脈拍は一定のリズムをもっているが、これが乱れることがある。
西洋医学では、不整脈や期外収縮などと表現されるが、
東洋医学では、結代脈といっている。結代脈は、結脈と代脈の総称である。
- 結脈 : 脈が一定間隔で跳ぶもの
- 代脈 : リズムが一定しないもの
脈位
定義
① 皮膚面を陽位とし、骨面を陰位とする。
②打っている脈の最上面を陽脈、最下面を陰脈とする。
③六部の指すべてに同質な脈を触れる脈位を中脈とする。
脈位の意味
① 陽脈は、表層の気の状態を示す。
熱があれば陽実脈となる。
② 陰脈は、深層の気の状態を示す。
根元的な冷えによって、まず陰虚脈となる。
熱があれば陰実脈となる。
③ 中脈は、胃の気を示し、生命力を判断する基である。
これが虚すれば陽虚脈である。
陽脈
陽実性の脈
陽実脈とは、陽位の脈が実していることを示す。
陽脈の診方は、脈を少しも圧し込まないで脈の表面にただ指を触れるだけの位置を陽位とする。その指の状態で脈を触れるようなことがあれば、それを陽脈があるとし、その状態の脈は必ず陽実性の脈となる。
積聚治療では、陽実の程度を指で感じる脈の強さによって、プラス3段階に分けています。
陽虚性の脈
陽虚とは陽位の状態が虚していることであるから、陽位に指を当てて少し力を加える。
さらに強く力を加えるという過程で、最深の陰脈も容易に触れない状況を陽虚脈としている。
これは、1か所のこともあれば数ヶ所、全脈などのこともあり、陽脈を示す脈が多いほど不良である。
陽脈自体、気血の大変な消耗を示しているので、その程度区分の意味をなさない。
マイナス表示のみとなる。
陰脈
陰実性の脈
陰実脈は、陰位の脈が実していることを指す。陰位は脈の最下層である。
陰位とは、脈を十分圧し込んだ時に(橈骨動脈を潰した状態で)脈が消える位置である。
骨に至るまで圧しても消えない脈は陰実脈となる。
陰実脈も脈の強さによってプラス3段階に分けられる
陰虚性の脈
陰虚脈は陰位の脈に力が無い状態で、基本的な脈である。
橈骨動脈を圧し込んだ位置が陰位であるが、その位置で指の力を抜いた時の脈拍動の戻りの遅いものを、虚の状態とする。
「遅い」という表現は2カ所あるいは3カ所を比べて表現するもので相対的な内容を含んでいるから、程度の違いが把握される。
手順
① 全ての脈が触れなくなるまでまず術者の指を沈める
② その位置から少し指の力を抜き、各部の脈の戻る順序および立ち上がりの強さの程度を他と比較する
③ 弱い場合はそれを虚とする
陰虚脈も脈の弱さによってマイナス3段階に分けられる
④ 脈の戻りが最も遅いものを虚脈とし、その順序を確認する
全ての指の力を少しづつ抜く
これは指を上げることではない
平脈
- 陽脈・陰脈に虚実がないもの
- 中脈に違和感がなく、適度な弾力性、太さ、幅があるもの
- 遅数・結代のないもの
特殊な脈
反関の脈
これは正規の橈骨動脈の位置に脈が触れず、橈骨茎状突起の背側から合谷穴の方にかけて脈動を触れるものを指す。これについては反関の位置で脈診せず、つねに正規の位置でとることにする。その結果、常に寸口や関上、あるいは尺中までが陽虚の状態を呈していることになる。
脈の調整
脈をみるのは気の偏りと滞りを知る為であるが、それがどの程度重度のものかを確認する必要がある。ここでいう脈の調整はそのためのもので、むしろ調整を試みるといったほうが良いかも知れない。
意義
腹部接触鍼と同様に腹部の聚を動かし、積の判断を容易にする。
脈を調整する行為は精気の虚を補うのであるから、脈を平脈に近づけると同時に、全身にも影響を与える。全身の影響を、脈と腹部あるいは他の指標で判断する。
選穴基準
積聚治療では、選択の基準になるのが指標である。
脈調整の指標は前腕部(腕橈骨筋、孔最穴、内関穴など)の凝り感や痛みの左右を比較し、
その強い方を患側、弱い方を健側とする。そして健側のツボを取穴し、患側の状態の変化をみながら刺激の程度あるいは時間的な長さを決めていきます。
これは前腕部の指標を比較しているときの風景です
方法
陰脈のみを調整する。
陽脈は陰脈に左右されるからである。
「陰主陽従」
選穴
太 淵 (脈会穴)
① マイナス評価の陰脈が少ない時 (2脈以下)
② 肺、脾のみがマイナス評価の時など
大 陵 (相火の原穴)
① マイナス評価の陰脈が多い時 (3脈以上)
② 心・肝・腎がマイナス評価の時
③ 実脈がある時など
ですが、積聚治療では、脈診をしても「証」をたてることはしません。
何故なら積聚治療の脈の位置付けは、「皮膚の次に動きやすい気」と考えます。
なので、脈をみる時は「ありのままをみていきます」脈診をして証の関連付けをするのではなく、「感じたまま」を評価して脈の調整で脈に変化があれば、身体全体に影響があると考えます。
まとめ
今回は脈診と脈調整の講義でした。
東洋医学の中で脈診が一番の醍醐味でもあり、一番の難関なのではないでしょうか?
脈自体が不安定なものなので、何回もみていると逆に訳が分からなくなってしまいます。
先生も常々おっしゃっておられますが、「一人でも多くの脈を診ないと上達しない!」
やはり修練あるのみです!
そう考えると、学生の時に脈診を教えてもらえて本当に良かったなぁ~と思います。
講義風景の写真を一枚 🙂
(学校用のセミナー写真の撮影のついでに、自分用にも撮ってみました。)
腹部接触鍼と脈診・脈調整でしっかり「聚」をなくしていけば、
次回講義やる腹診の「積」がしっかりでてきます。
説明文の内容は自論を書くわけにもいけないので、資料を参考にしています。
少しでも役立てていただければ幸いです。
参照資料積聚治療 小林 詔司著 医道の日本社改訂 積聚治療テキスト 積聚会東洋医学概論 医道の日本社
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